墜落日記 - 2008年10月29日の墜落
もはや Google はセキュリティリスクである
三週間にも及ぶ Google ストリートビューの削除要請で、やっと自宅が写っている私道を削除させることに成功した自分だが。
今回のことで痛切に感じたことがある。
もはや Google の存在はセキュリティリスクとして認識した方が妥当である。
現在、方々で Google ストリートビューが問題視されているが、その根拠に明確な法的根拠があるかというと、実はグレーである。
もちろん問題視する根拠が法的にグレーだからと言って、Google ストリートビューが法的に白かというと、当然コレも違う。
問題視する根拠が法的にグレーなのなら、問題視されている対象も法的にグレーだと考えるのが妥当だろう。
この煮え切らない状態が続くのは、Google ストリートビューをプライバシーの侵害だとする論拠が一般的だからだ。
さて、視点を変えて、たとえ話をしよう。
日本の町中には ATM や自動販売機が溢れている。
今まで、銀行や飲料水メーカはこれをサービスの一環として展開してきたし、我々はコレを便利に使わせてもらっている。
しかし昨今、海外から入ってきた人間の目から見るとこの状況は「町中に一杯金庫が放置されている状態」だと見なされる。
現実に、ショベルカーを持ってきて大胆不敵に ATM や自動販売機を叩き壊して現金を強奪する犯罪も起きている。
なんでこんなことになったかというと、ATM や自動販売機を設置する段階で日本人はそこまでのセキュリティリスクを想定していなかったからだ。
日本人の中には基本的に「渡る世間に鬼はない」的な性善説を根拠としている部分もあり、諸外国に比べるとセキュリティリスクの認識範囲が違っている。
これは日本人の素晴らしい美徳であると同時に、危機感の足りない部分でもある。
さてさて、更に視点を進めて「ATM はショベルカーでぶっ壊される可能性がある」というセキュリティリスクに対して対策してみよう。
(例を簡単にするため、「設置しない」という選択肢は考えないこととする)
銀行は ATM の回りを分厚いコンクリートで固めることを考えるかもしれない。
たしかに分厚いコンクリートならショベルカーと言えども簡単にぶっ壊されることはない。
セキュリティリスクは回避された。
犯罪組織は仕方ないから、ビル解体工事に使う様な鉄球をぶつけて ATM から現金を奪った。
ATM のセキュリティは破られたわけである。
そこで銀行は更に考えた。
分厚いコンクリートに耐爆構造を持たせて、鉄球をぶつけた程度では簡単に壊れないようにした。
セキュリティリスクは更に回避された。
犯罪組織は仕方ないから、人間が持ち歩ける範囲の威力を遙かに超えた空対地ミサイルでもってぶっ壊した。
ATM のセキュリティは更に破られたわけである。
―――ま、これは極端なたとえだが。
では現在の ATM は耐爆構造のコンクリートで囲まれているかというと、当然そうではない。
アセチレントーチを持ってきた程度で簡単にぶっ壊せるのが現状だ。
これは簡単なからくりだ。
セキュリティリスクに対する防御措置というのは、結局セキュリティが破られた時の損失と、その対策にかかる費用の双方からトレードオフが取られる。
銀行は ATM を設置するに当たってビル解体工事に使う様な鉄球をぶつけられるような事態を想定から外してセキュリティ評価をしたのだ。
これ自体は悪い話ではない。
だれだって当然同じ事をしている。
貴方は自動車に轢かれるリスクを回避するために一生を自宅の中で過ごしていますか?
自宅がテロに襲われるリスクを回避するために地下シェルターに籠もっていますか?
核戦争後も生き残れるように地下シェルターは核攻撃にも耐えられるようにしていますか?
そう言うことである。
―――これも極端なたとえだが。
この様な観点から Google ストリートビューを考えてみよう。
Google ストリートビューの画像データは、どうやら車載カメラで、しかも地面も無理なく写すためか結構高い位置から撮影したと思われる。
日本家屋の塀は、基本的に歩行者の視線から家屋の内部が簡単に見通せないように設計されている。
これは前述のセキュリティリスクのトレードオフだ。
塀を設計する段階で、潜水艦の潜望鏡の様な道具を使って道を歩く人や、3メートルの宇宙人なんてあからさまに怪しい連中など想定していない。
しかし Google ストリートビューの撮影では、その想定外の、通常では考え得ないような状況で撮影が行われた。
結果として、通常はそうそう暴かれることのない私生活が赤裸々に暴かれてしまう可能性が出てきた。
我々が全く想定していない新しいセキュリティリスクとなってしまったわけである。
話を発展させよう。
例えば空き巣に入ろうとしている人がいるとする。
当然、空き巣は下見をするだろう。
しかし空き巣目的の下見で塀の向こうを覗いたりするのはあからさまに怪しい能動的な行為だから、御近所の目に見付かるリスクを冒していることになる。
しかし Google ストリートビューは空き巣にこのリスクを回避させてしまった。
Google ストリートビューは前述の通り通常はあり得ない、「覗く」という能動的な行為を伴わなければならないような視点の高さから、しかし機械的に撮影してしまっている。
機械的に撮影されて Google ストリートビューに機械的に公開されてしまった画像を空き巣がじっと眺めていても、御近所の目は届かない。
空き巣は充分に Google ストリートビューで下見をして、最後に現地入りして最終確認をすればよいだけで、かなりのリスク軽減となっている。
そして我々にとっては新たなセキュリティリスクが生まれてしまったことになる。
(実際に空き巣に入るとなると周辺も含めた住民の生活パターンを捕捉しなければならないため、Google ストリートビューからは得られない時系列の情報が必要になるが)
例では空き巣としたが、これがテロリストでも良い。
テロリストは何度も来日して現地視察をするリスクを回避してしまっている。
Google ストリートビューが警察が全く想定していなかったであろう新しいセキュリティリスクとなってしまったことになる。
これはもしかしたら、国家存続の危機を招くセキュリティリスクかもしれない。
Google は今まで、検索エンジンだけでなく様々なサービスを展開してきた。
その技術は時に新しい発想だったり、今までにない物だったり、ありふれた物だったりした。
そう、Google ストリートビューだって技術自体はたしかに面白い。
全く新しい技術かというと、それもまた違うけれど。
これは誰もが認めることだと思うが、Google は「情報を求めるすべての人々に提供する」という会社理念に基づいて余念無く情報収集している。
そして収集した情報を公開することにも余念がない。
最近は情報を収集し公開する目的が単純に広告事業のためだと思われる節もあるにはあるが、なんにしろ会社理念の実現に向けて頑張っている。
Google ストリートビューは WEB だけでは収集できない情報を WEB の外から収集して大規模展開した好例である。
しかし Google は想定外に大きくなった。
通常では費用対効果のトレードオフから出来ないような馬鹿げた発想に、多額の現金を注ぎ込むだけのキャッシュフローが出来てしまっている。
だから Google ストリートビューなんて馬鹿げた金の掛かることも、非難囂々でサービスがぶっ潰された時のリスク評価さえまともに行わず考え無しに出来てしまった。
こんなやばいネタなら普通は事前の綿密な調査や根回しを行うところでもあるにも関わらず、である。
なまじにキャッシュフローがあるから考え無しになんでも出来てしまう。
情報を集めて公開するだけなら誰でも出来る。
しかし Google は巨大なキャッシュフローによってそれを我々の想定外の方法でもって行うことが出来るようになった。
我々の想定外の方法で行うことが出来るのであれば、我々が想定していない情報まで勝手に持って行かれて、我々が想定していない方法で勝手に公開される可能性がある。
そして Google はそれを躊躇わず考え無しに行うだけの稚拙さを持ち合わせていることが Google ストリートビューの一件で明らかになった。
これは言うまでもなく Google が我々にとって新たなセキュリティリスクとなったことを意味する。
今後は Google を1つのセキュリティリスクであると認識し、Google の行動が場合によっては自分達の不利益になりかねないという視点を持つべきであると提言する。
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