墜落日記 - 2009年8月24日の墜落
プログラマは何故に転職を志すのか? 人材の流出を防ぐには?
昨今の経済事情からフリーターはちっとも格好の良い業種ではなくなったが、企業寿命が我々の就業年数よりも短いことが多くなったことも考えると終身雇用も現実的ではなくなっている。
その中で、転職意向率に関して他の業種より高いのが情報サービス・調査業、即ち我々が日々戦っている IT 業界である。
IT 業界は御存知の通り、建築業界の業界構造をどういうわけか模倣している節があり、業界にはピラミッド構造が存在する。
もちろん業種別で見ても底辺(と勝手に定義されている)のプログラマに支えられるピラミッド構造だ。
そのピラミッド構造を支える底辺(と勝手に定義されている)のプログラマには 35 歳定年説などという説もまことしやかに噂されているが、プログラマの転職率、そして離職率には驚くべき物があるのも事実だ。
では、プログラマは何故に転職を志すのだろうか?
ここではプログラマが異業種に転職する場合ではなく、プログラマがプログラマに転職する―――即ち所属する会社を変える、もしくは独立する要因に目を向けてみたい。
と言うのも、プログラマにはどうも他の業種よりも転職しやすい環境という物があるような気がしてならないからだ。
なお、ここではそれなりに能力の高いプログラマを対象として考えることを明記する。
(能力の低いプログラマはそもそもプログラマとは呼べず、その転職理由も特筆すべき点などないからだ)
- ■正の要因その1・プログラマってなにげに専門職
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そもそもプログラマという物が専門職であることが要因の1つとしてあげられる。
昨今は PHP や Ruby などの軽量プログラミング言語、所謂 Lightweight Language(LL)の登場で昔よりも遙かに敷居が低くなったとは言え、それでもまともに実運用できる環境を整備して運用に耐えるプログラムを構築する技術は専門性が高い。
しかも伝統技術などの極端な専門性と異なり、プログラマの専門性は活躍の場が多い。
つまり一般事務職やコンビニのバイトなどの 100 人の人材が居れば 99 人は出来るであろう一般職よりも、100 人の人材が居ても 5 人も居ないプログラマの方が転職が成功する確率が高い。
求人に対する応募の倍率が極端に大きくならないし、能力の高いプログラマにはいつでも転職の可能性が拓けているのだ。
- ■正の要因その2・プログラマの能力格差は顕著
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敢えて要因その1と分けたのだが、プログラマの能力差は一般事務職に比べて顕著であることも要因の1つとしてあげられる。
プログラマとして数年戦った人間であれば肌感覚で理解できようが、能力が高いプログラマの仕事は早く確実で、しかも運用に入ってからの維持費用も小さい。
しかし能力の低いプログラマの仕事は遅く不確実で、運用に入ってからも処理速度の遅さや障害発生率の高さなどにより多大な維持費用がかかる。
この差は時として 100 倍から 1,000 倍もの開きがあるくらいである。
そして、一見多くの人材を抱えて様々な案件を切り盛りしているような会社に於いても、能力の高いプログラマというのは殊の外少ないのが実情である。
この辺りの事情もあり、IT 企業は人材が足りている様に見えても能力の高いプログラマを得たいが為に、よりよい待遇を提示して求人を続けているわけである。
即ち、能力が高いプログラマは自社に留まってベースアップを望むよりも、転職によって給与水準を引き上げた方が効率がよいのである。
- ■正の要因その3・プログラマは人件費比率が高い
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IT 業界は余程に大きい規模で間接部門が大きくなっていたり無駄に自社ビル建ててでもいないかぎり、予算に対する人件費の比率が非常に大きい。
即ち身ひとつでどうにかなることも要因の1つとしてあげられる。
例えば熟達した自動車工場の作業員が一念発起して自動車工場を立ち上げ独立しようとしても、工場を立てる土地、建物や機材の用意に莫大な資金が必要となるし、その維持にも気が遠くなるような資金が必要になる。
それがプログラマの場合、ぶっちゃけ PC が一台あれば個人事業主として独立できる。
能力が高いプログラマが転職ではなく独立を選択する率が高いのも、この予算に対する人件費比率の高さに起因する。
この様に、プログラマ、とりわけ能力の高いプログラマは転職意向率を上昇させる環境に恵まれているのである。
さて、ここまでプログラマが転職の道を選びやすい正の要因を考えてみたが、これらを逆転させてプログラマが転職の道を選びやすい負の要因となることも考えてみたい。
- ■負の要因その1・プログラマは専門性を維持させてもらえない
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能力の高いプログラマに割と多い傾向だが、プログラマとして専門性の高い仕事を続けていきたい意向が強いようだ。
しかし日本の企業文化ではどういうわけかプログラマの地位が非常に低く、プログラマはいつかシステムエンジニアとなり、マネージャとなっていくという暗黙の了解が勝手に出来上がっている。
一般社員が主任になり、係長になり、課長になり、部長になるという、年功序列とそれに伴う給与水準の上昇、そして否応なく職域を管理側にシフトさせられるという組織論に則った“出世”というレールを、専門職に無理矢理(と思っていない経営者が多いが)に当てはめている。
しかしプログラマはプログラムをして飯を食いたいのであって、クルーの管理をして飯を食いたいわけではない。
即ち、プログラマはプログラマでいるために否応なく転職せざるを得ない状況に追い込まれる。
- ■負の要因その2・プログラマは能力格差を評価されていない
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能力の高いプログラマはプログラマの能力格差が非常に顕著であることを知っている。
隣に座っている残業ばかりしている同僚が一週間かけた仕事を自分なら半日で終わらせられることを知っているし、会社が何故か懲りずに採用する新卒が組んだプログラムが仕様変更の時に丸ごと置き換えるしかないシロモノであることを知っているし、いつか自分がその尻ぬぐいのために膨大な残業を強いられることを知っている。
しかしその能力格差が給与水準に反映されていないことも知っているのだ。
特に所属している会社のレベルが低ければ低いほどに(それは得てして入ってみなければ分からない)能力と給与水準の不一致は著しくなっていく。
故に、能力の高いプログラマが自分の能力と自分の給与水準に致命的な齟齬を感じた時、自分を高く買ってくれる別の会社を探そうとするだろう。
- ■負の要因その3・プログラマの人件費比率の高さがプログラマに還元されない
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原価計算が少しでも出来るプログラマなら自分が対外的に売られている金額―――即ち売価と自分の給与総額に開きがあることを知っている。
本来、プログラマの人件費比率は高いため売価に対する原価の比率は高いはずであるが、それがプログラマ本人への給与や投資に直接反映されることは希である。
その原因は間接費の大きさであったり、会社の設備投資だったりするが、能力の高いプログラマにとってそれは能力の低いプログラマや管理能力のない上司(仮に)の給与を捻出するために他ならない。
能力の高いプログラマの給与は能力の低いプログラマの給与とさして変わらず、管理能力のない上司(仮に)の給与よりも低いため、人件費比率の高さが能力の高いプログラマへ還元されていない。
特に、能力の高いプログラマの売価が大きい時にこの齟齬が顕著に発生する。
ならば能力の高いプログラマは自分の売価の恩恵を素直に受け取りたいと思うことが当然であり、全ての管理作業をも自己で行うリスクを背負う替わりに間接費(要はピンハネ)を押さえる選択をする可能性が高まる。
この様に、プログラマ、とりわけ能力の高いプログラマは自己の能力と現状の待遇との間の齟齬に気付きやすい環境にいるのである。
以上の様に、専門性、顕著な能力格差、人件費比率の高さの3つの要因により、能力の高いプログラマの転職意向率が高いのはむしろ当然ということとなる。
特に能力の高いプログラマが自分が所属している会社の能力の低さを感じた時、これら要因が一度に発生して転職意向率が急激に上昇すると考えられる。
そして能力の高いプログラマであればあるほど専門性が高く、能力格差も顕著であるため人材として価値が高く、プログラマという業種の人件費比率の高さから独立も視野に入れやすい。
即ち、プログラマがプログラマという仕事を続けていくために、雇用主への交渉手段として「転職」や「独立」を選ぶ敷居が他の業種に比べて低いのである。
またこれらの要素を総合して考えると、プログラマが会社に帰属する意識が希薄になるのも当然の帰結と言え、この帰属意識の低下が「転職」や「独立」を選ぶ敷居を下げることに繋がっている。
もちろん 3K などと揶揄される就業環境の劣悪さもあるが、これらのプログラマという業種の特殊性が転職意向率の高さに繋がっているのではないかと考えられる。
プログラマという業種は他の一般職と同様に考えてはいけないのである。
さてさて、ここまではプログラマの転職意向率の高さの要因に関して考えてみたが、これを元に能力の高いプログラマの流出を防ぐには経営者が何をしたらよいかを、ちょっとダケ考えてみる。
- ■方策その1・専門性を維持するパスを用意する
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プログラマは専門性が高い専門職であると同時に、自己の専門性を維持したい傾向がある。
プログラマであることを望むプログラマにプログラマ以外の仕事を与えてはならない。
プロジェクトマネージメントだの予算管理だのクルー教育だのは能力の高いプログラマの専門外である。
能力の高いプログラマを維持しつつ、能力の高いプログラマから能力の高いマネージャへの移行も許容するために、テクニカルパスとマネージメントパスの少なくとも2つのパスを用意するべきだ。
そして最も重要なのは、テクニカルパスに進んだ人材とマネージメントパスに進んだ人材の技術、機会供与がスムーズになる仕組みを考えることだ。
専門職は専門性を遺憾なく発揮できる機会を常に欲しているのである。
- ■方策その2・能力格差を反映する評価制度を構築する
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能力の高いプログラマに能力に応じた給与(流石に 100 倍や 1,000 倍の差を付けるのは難しいだろうが)を支払う評価制度を構築し、明確化することだ。
会社の状況が悪くなったからといって賞与を“一律に”カットするなどというのは自殺行為以外の何物でもない。
それは能力の高いプログラマに「能力の低いプログラマの尻ぬぐいをさせられた」という負の感情しか抱かせないのだ。
経営者は評価制度に照らし合わせ、能力の高いプログラマには回りが驚くほどの評価を与えるべきである。
そうすることで能力の高いプログラマの満足度を維持することが出来るだけでなく、能力の足りないプログラマを奮起させる材料にもなる。
最も忌むべき間違った行為は、“施しの精神”で多くのプログラマに小さな評価をばらまく行為である。
博愛主義的な評価のばらまきはプログラマを馬鹿にしているだけの自己満足に過ぎない。
- ■方策その3・人件費比率を相対的に下げる
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能力の高いプログラマには開発意欲や研究意欲を刺激する投資を行う。
「この会社にいると個人では手に入らない環境で開発が出来る」というメリットを感じさせること、即ち人件費比率の高さだけでは実現できない組織力によるバックアップを実感させることが重要である。
間違っても集中購買で平均化された環境を配布する様な行為は行うべきではない―――それが許されるのは一般事務職だ。
能力の高いプログラマには能力に相応しい組織的な投資を行うこと、自分に与えられた環境が組織力を無くしては実現が難しいことを明確に知らしめることが肝要である。
能力の高いプログラマが自費を投じて自身の仕事環境を整備するようになったら、それは近い将来に会社を見限る危険信号と認識すべきだ。
それは即ち、その能力の高いプログラマにとって会社が期待するに値しない存在であるという意思表示に他ならない。
自分が考えるに、能力の高いプログラマを維持したい会社が真っ先に取り組まなければならない最も重要な方策は「方策その2・能力格差を反映する評価制度を構築する」である。
非常に簡単な話だが、能力の高いプログラマを正確に見極める評価制度がなければ、妥当なパスの構築も出来ないし、投資の計画も立てられないからである。
評価制度に揺らぎがあれば本当に能力の高いプログラマが能力が高いと言われているプログラマに対して嫌悪感を抱く可能性があるし、評価制度に不信感を抱き、最終的には会社を見限る危険性にも繋がる。
会社としても能力が高いプログラマを見誤る危険性があるのは捨て置けないだろう。
評価制度の構築の重要性は何もプログラマに限ったことではない一般的なものではあるのだが、プログラマという業種を考えた際にそれは更に顕著となるのだ。
ただでさえ転職意向率を上昇させる環境に恵まれている能力の高いプログラマの流出を防ぐ方策は、プログラマが納得する評価制度の構築に尽きる。
会社と社員は対等な契約関係にあり、会社が社員を選定することと同様に、社員も会社を選定する。
即ち、プログラマが自己の商品価値を高めることに努力することと同様に、会社も能力の高いプログラマから見て魅力的であるよう努力することが必要だ。
能力の高いプログラマから見た魅力的な会社とは、職域を侵さず、能力に見合う評価とそれに伴う投資を行う会社である。
ただ年功序列に一律で給料を払っているだけでは、能力の高いプログラマの目には魅力的な会社とは映らないのである。
ここまで個人的な視点からつらつらと書き綴ったわけだが。
もし貴方が属している会社がキーパーソンとも言える能力の高いプログラマの流出を止められない現状にあるのであれば、参考程度にはなれると嬉しい。
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